Talk-Session vol.3『KAiGO × 金融 × スタートアップ』
100兆円市場に挑むチャレンジャーたちが語る、資金調達と社会実装のリアル
──「共感」を資本に変え、超高齢社会の新たなインフラを共創する
登壇者プロフィール

一色 淳之介 氏
株式会社ゼストCEO
新卒でP&Gジャパンのマーケティング部門に入社。2013年に創業期の株式会社ヤマトキャピタルパートナーズ(現・株式会社YCP Solidiance)に参画。パートナーとして、様々な企業に対するマーケティング、経営戦略、新規事業立案等のコンサルティング支援を行う。投資先であったエンターテインメント企業(2023年に東証グロース市場に上場)においては役員として、事業戦略・組織戦略・資本政策などを牽引し、事業再生を実現。2022年9月1日に株式会社ゼスト代表取締役社長に就任。

杉浦 太紀 氏
株式会社Magic Shields取締役COO
2010年から刈谷豊田総合病院で10年間勤務し、急性期から慢性期まで幅広い分野のリハビリテーションを経験。 2016年よりグロービス経営大学院に通学し、知り合った仲間とともに、株式会社Magic Shieldsを共同創業。転倒時だけ柔らかくなり衝撃を吸収する床材『ころやわ®︎』の生みの親。
セッションの様子
介護現場の「痛み」を解決するプロダクトの力
本セッションには、介護・福祉領域の課題をテクノロジーとビジネスの力で解決しようと奔走する2人のフロントランナーが登壇しました。
まず、株式会社Magic Shields取締役の杉浦太紀(すぎうらたいき)氏は、転倒時の怪我を防ぐ衝撃吸収床材「ころやわ」を紹介。理学療法士として病院に10年間勤務した杉浦氏は、多くの高齢者が転倒・骨折をきっかけにADL(日常生活動作)を低下させる現実に直面してきました。
「転ばせないために身体拘束をするのではなく、転んでも怪我をしない環境を作りたい」という切実な願いから生まれたこの製品は、バイクの衝撃吸収技術を応用した独自の構造を持ち、歩行時には硬く、転倒時には柔らかく沈み込むという画期的な機能を備えています。
続いて登壇した株式会社ゼスト代表取締役CEOの一色淳之介(いっしきじゅんのすけ)氏は、訪問医療・介護のスケジュール管理を最適化するクラウドソフト「ZEST」を展開しています。 一色氏は、P&Gでのマーケティング経験や事業再生の知見を背景に、アナログな調整業務に忙殺される現場の生産性向上に挑んでいます。 「1日5軒回れるはずが、非効率なスケジュール・ルート作成のために3軒しか回れない。このロスを解消することが、深刻な人手不足に対する一つの答えになる」と一色氏は力説します。現在、全国1,000以上の事業所に導入され、シリーズBの資金調達も達成した同社の軌跡は、介護×SaaSの大きな可能性を証明しています。
投資家が求める「実需」と「スケール」の視点
セッション中盤では、ビデオメッセージを通じて2人の専門家が、金融・投資の観点から介護スタートアップへの期待を語りました。
株式会社ミダスキャピタル代表パートナーの吉村英毅(よしむらひでき)氏は、投資家が重視するポイントとして「現場の深い理解に基づいた実需」と「大きな成長を描けるビジョン」を挙げました。
吉村氏は、介護業界を「マーケットが拡大し続け、需給ギャップが広がっている大きなチャンスのある市場」と評しています。 投資家が求めているのは、単に数千万円の利益を出すビジネスではなく、数億、数十億という利益を生み出し、社会のインフラとなり得る規模感です。 起業家自身がそのスケールを確信し、自らの思いと未来をわかりやすく投資家に伝えるコミュニケーション能力こそが、資金調達の成否を分けると指摘しました。
実際に、吉村氏の出資を受けているゼストの一色氏は、この視点に深く同意しました。 社会課題解決へのパッションは前提として、投資家に対してどのようなリターンを出せるのか、そのためにどのような事業計画を描き、それを実行できるチームがあるのかを示す責任があるといいます。 道徳と経済の両輪を回すことの重要性を説く一色氏の言葉からは、プロフェッショナルな経営者としての覚悟が滲み出ていました。
資金調達の鍵を握る「共感」のパラダイムシフト
もう一人のビデオゲスト、認定特定非営利活動法人日本ファンドレイジング協会代表理事の鵜尾雅隆(うおまさたか)氏は、資金の流れにおける「共感」の重要性について言及しました。 鵜尾氏によると、社会課題解決を志向する「インパクト投資」の残高は、日本国内でもここ8年で300億円から17兆円へと爆発的に増加しています。
鵜尾氏は、起業家を「バウンダリー・スパナー」と呼び、異なる組織や立場の人々を信頼で繋ぎ、大きな変化を生み出す役割に期待を寄せています。 理屈や論理だけでは越えられない壁を突破するのは、起業家の情熱が投資家や寄付者の心に響き、感情が交錯する瞬間です。 「支援する側も支援される側も、そのプロセスを通じてWell-being(幸福)が高まっていく。そんなポジティブな循環こそが、これからの日本に必要だ」という鵜尾氏のメッセージは、会場の聴衆に深い感銘を与えました。
これを受けて、Magic Shieldsの杉浦氏は、自らの経験を振り返りながら「共感のレイヤー」について語りました。 「医療費や介護費の削減といった社会全体へのインパクトへの共感だけでなく、目の前で困っている一人ひとりの課題を解決できるという、より強固な共感を得ることが重要だ」と、現場に根ざした視点の大切さを強調しました。 単なるPRではなく、本当に意味のあるものを開発し、その価値を実直に届けていくこと。その積み重ねが、深い共感と信頼の獲得に繋がるのです。
情報発信が仲間を呼び、未来を動かす
話題は、スタートアップにおける情報発信の重要性にも及びました。 杉浦氏は「いかにシンプルに伝えるか」にこだわり、「ころやわ」というひらがな4文字の名称や、自らロゴ入りの派手なTシャツを着てマラソン大会に出場するなどの草の根的な活動から、メディアへのプレスリリース配信まで、多角的な発信を続けています。
一方、一色氏は「Who, What, How」というマーケティングのフレームワークを用い、限られたリソースの中で「誰に」「何を」「どう伝えるか」を徹底的に突き詰めることの重要性を語りました。
一色氏は、「資金調達も仲間集めも、相手に合わせてメッセージを最適化し、心を揺さぶるまで深掘りすることが必要だ」と述べました。 スタートアップという不安定な環境だからこそ、自分たちがなぜこの事業をやるのかという「Why(目的意識)」を明確にし、周囲を巻き込んでいく力が不可欠となります。
杉浦氏も、グロービス経営大学院での出会いから今の共同創業が始まったエピソードを披露。 「自分一人でできることは少ない。周囲に関係性を広げ、うまく巻き込み、時には乗っかる力も持ちながら、介護領域を盛り上げていきたい」と、チャレンジャーたちへのエールを送りました。
シルバーエコノミーの可能性を世界へ解き放つ
セッションの締めくくりでは、日本発の介護ビジネスが持つグローバルな可能性に触れました。
一色氏は、世界で最も高齢化が進んでいるからこそ、日本で成功したモデルは10年後、20年後に同じ課題を抱える他国にとっても価値あるものになると展望を語りました。 「日本発で世界に誇れる企業が生まれる、非常に大きなポテンシャルのある領域だ」という言葉には、介護ビジネスへの誇りが満ち溢れています。
ファシリテーターを務める一般社団法人KAiGO PRiDE理事の小口貴幸(こぐちたかゆき)は、本セッションの締めくくりとして「誰もが自分らしく楽しく生きられるポジティブ・ライフな社会の実現こそが、私たちの共通のゴールである」と改めて宣言。 自分自身や大切な人の「自分らしさとは何か」を深掘りし、介護・福祉におけるモチベーションに変えていくことが、金融やスタートアップという枠組みを超えて、未来を切り拓くエネルギーになると総括しました。
超高齢社会という巨大な波を、停滞の要因ではなく、新たな経済成長と幸福の源泉へと変えていく。 金融とテクノロジー、そして起業家たちの飽くなきパッションが共鳴したこの場所から、100兆円規模のシルバーエコノミーは、着実にかつ力強く社会に実装され始めています。
日本が世界のフロントランナーとして、介護という誇り高い仕事を、誰もが希望を持てる次世代の成長産業へと進化させていく。 その未来への確かな手応えを残し、熱気溢れるセッションは幕を閉じました。
セッション一覧
「International KAiGO Festival 」とは
高齢化を脅威ではなく成長のチャンスと捉え、介護とシルバーエコノミーを変革
——KAiGOが日本と世界の未来を動かす答えと機会を生み出す場
3人に1人が65歳以上という急速な高齢化に直面している日本。介護職不足や約9兆円の経済損失などの課題を抱える一方、シルバーエコノミーは100兆円規模に成長する見込みです。「International KAiGO Festival」は、日本が世界に誇る介護の知見をさらに進化させ、介護を中心とした経済・社会のエコシステムを共創するプラットフォームとして立ち上げられました。スタートアップ、企業、政策立案者、投資家、介護職が集い、セッションやアワードを通じて次世代のビジネスモデルや技術革新を促進。「介護エコシステム」創出につながる業界を超えた価値ある学びが得られるインキュベーションの場として、日本と企業の未来を支援します。
「KAiGO PRiDE」とは
KAiGO PRiDEは、誰もが自分らしく安心して暮らせる社会の実現のため、クリエイティブの力で日本の介護を拡張・強化するプロジェクト。人類史に類をみない超高齢社会の日本では2040年に57万人の介護職が不足すると言われるなかで、私たちがライフクリエイターと呼ぶ全国の介護職・福祉職たちのSelf-respectを醸成し、社会からのリスペクトにつなげる「KAiGO-Branding」を展開。また、介護≠ケアとも言われ、私たちが世界一だと信じる日本の介護の持続可能性のため、様々なプレイヤーの巻き込みを図る「KAiGO-Ecosystem」の形成を推進しています。介護をKAiGOとして、その可能性と誇りをクリエイティブの力で形にするプラットフォームとして多様なプロジェクトをグローバルに展開しています。