SHORT MOVIE × Real Talk『厚労省事業で制作する映画を軸にした上映×トークイベント』
「ケアの真実」と「一歩」が持つ力
── 128万回再生の映画『もう一歩』が社会の認識を塗り替える
登壇者プロフィール

マンジョット・ベディ
一般社団法人KAiGO PRiDE 代表理事

遠田 悟 氏
KAiGO PRiDEアンバサダー

小島 正統 氏
KAiGO PRiDEアンバサダー

成田 雲乃 氏
KAiGO PRiDEアンバサダー
セッションの様子
映像と対話が描く「介護の真実」
「International KAiGO Festival 2026」(以下「IKF」)の2日目、メインステージでは特別なセッションが開催されました。 ファシリテーターを務める 一般社団法人KAiGO PRiDE 理事の小口 貴幸(こぐちたかゆき) は、冒頭でIKFの核心的キーワードである「ポジティブ・ライフ」について語ります。「ライフという言葉には、日々の生活、かけがえのない命、そして一人ひとりの人生という意味が込められている」と述べました。 この「ポジティブ・ライフ」の根幹にあるものを感じてもらうため、厚生労働省の補助事業として制作された短編映画『もう一歩』が特別上映されました。 YouTubeでの再生回数が128万回(2026年2月時点)を超えるこの作品は、単なる仕事紹介の動画ではありません。 人が人らしく生きるために、そして周りの人が寄り添う時に何が大切なのかを問いかける、真実の物語がスクリーンに映し出されました。
映画『もう一歩』に込めた、真実の力
映画上映後、大きな拍手に包まれる中、本作の監督を務めた 一般社団法人KAiGO PRiDE 代表理事のマンジョット・ベディ が登壇しました。 監督は、自身の父親を3年前に亡くした経験を振り返り、「自分自身の反省だらけの思いがこの映画の出発点にある」と明かしました。 「もっと早く父と一緒にいればよかった」「もっと話を聞いてあげればよかった」という後悔。 その一方で、介護のプロフェッショナルたちが現場で見せる「かっこよさ」に、彼は10年前から惚れ続けています。
映画のタイトルである『もう一歩』には、家族であれば諦めてしまう瞬間に、プロとしてあともう少しだけ踏み込むという決意が込められています。 認知症によって心を閉ざした主人公・昭雄に対し、介護職の美咲が指先の動きから彼の音楽への愛を汲み取り、再びサックスを吹くまでを支えるシーン。 「そこにもう一歩あったか、なかったかの違いが、その人が最期まで自分らしくいられるかを決める」と、マンジョット代表理事は監督としての想いを熱く語りました。 介護の現場に実在する温かな物語を、誇張することなくリアルに描くこと。 その「真実の力」こそが、多くの視聴者の心を動かすエネルギーとなっているのです。
現役介護職が語る、ケアの現場に宿る誇り
続いて、映画の制作に協力し、日々現場で活躍する3名のアンバサダーが登壇し、それぞれの視点から映画への想いを語りました。 KAiGO PRiDEアンバサダーの遠田 悟(えんださとる)氏 は、「介護に正解は一つではない」という点を強調しました。 同じ声掛けをしても、関わる人によって反応が異なるのが認知症ケアの難しさであり、醍醐味でもあります。 「その人との関係性をどう作っていくかというプロセスこそが、介護の一番の魅力だ」と、遠田氏の実感のこもった言葉が響きました。 次に、KAiGO PRiDEアンバサダーの小島 正統(こじままさのり)氏 は、介護への「人生のエピローグを書くお手伝い」という認識が変わったといいます。 かつて担当した103歳の女性が亡くなった際、「ご家族から『お通夜の後、小島さんと 2人で撮った写真を見て、笑いながら見送れた』と聞いた」エピソードを披露。 「介護は目の前の人が亡くなったら終わりじゃない。家族や親しい人が日常に戻る一歩を踏み出すお手伝いをする」「一つの章の終わりと、次のチャプターの始まりを繋いでいく仕事」という言葉に、会場の多くの参加者が深く頷いていました。 また、KAiGO PRiDEアンバサダーの成田 雲乃(なりたうんの)氏 は、映画を通じて「愛情の連鎖」を感じたと語ります。 劇中、父のケアを通じて疎遠だった兄弟が再び絆を取り戻していく様子に触れ、「ありがとう」と言われるだけでなく、こちらからも感謝できるこの仕事の尊さを再確認したといいます。 成田氏の晴れやかな表情は、介護職としての誇りと喜びに満ちていました。
「感動」を超えた「共感」が社会を動かす
セッション中盤、マンジョット監督は映像制作における「感動」と「共感」の違いについて、独自の哲学を述べました。 彼によれば、感動とは一時的な「ギャップ」であり、時間が経てば消えてしまうものです。 対して、共感とは「お互いの価値観が重なるエネルギー」であり、時間が経つほど増幅していくものだといいます。 「なぜ、それをしているのか」という「Why」の部分にこそ、物語の真実が宿るのです。
劇中で象徴的な「海のシーン」についても議論が及びました。 夕暮れの海を見つめながら、昭雄が「昨日も家族でここに来たな」と呟くシーンです。 実際には来ていない場所であっても、五感を通じて昭雄がいつかの思い出を思い返す瞬間として描かれています。 監督は「人生は寄せては返す波のようなもの。昨日より今日、出会いに感謝しながら生きていくことの象徴として、海を選んだ」と明かしました。 こうした細部へのこだわりが、視聴者を「自分事」へと引き込み、深い共感を呼んでいるのでしょう。
認識の変化が、行動と未来を変えていく
小口理事は、本セッションを締めくくるにあたり、強いクリエイティブが持つ「認識を変える力」について語りました。 「認識が変われば、人の行動が変わる。行動が変われば、やがて文化や社会すらも動いていく」とメッセージ。 実際に、映画『もう一歩』を見た視聴者から、小口理事のもとへ一通の衝撃的なメッセージが届いたといいます。 それは、老老介護に悩み、心中すら考えていた80代と90代の夫婦が、この映画を見て「施設に頼ることは諦めではなく、プロに任せるという前向きな選択肢なんだ」と気づき、入所を決意して希望を見出したという内容でした。
このエピソードこそが、クリエイティブが社会にもたらす価値の真髄です。 「介護は生活のサポートをするだけの仕事ではない。人の人生そのものに関わる専門職である」という気づき。 この気づきが社会に広まる時、介護という言葉にまとわりついていたネガティブなイメージは、輝かしい誇りへと塗り替えられていくはずです。
本セッションの映画『もう一歩』が示したのは、ケアの現場でプロが踏み出す「もう一歩」が、本人の人生の輝きを取り戻し、家族の絆さえも再生させるという真実の物語です。本作は「介護のプロフェッショナリズムを社会の誇りへと変え、誰もが自分らしく生きるポジティブ・ライフを実装する」というKAiGO PRiDEの意思が宿っています。
映像というクリエイティブが生み出す「共感」は、一時的な感動を超えて人々のマインドセットを根底から揺さぶり、新たな文化の土壌を耕していきます。介護の価値を単なる「生活の支え」から「人生の共創」へと再定義し、一人ひとりが最期まで自らの物語を描き続けられる社会へ。すでに進化は始まっています。
セッション一覧
「International KAiGO Festival 」とは
高齢化を脅威ではなく成長のチャンスと捉え、介護とシルバーエコノミーを変革
——KAiGOが日本と世界の未来を動かす答えと機会を生み出す場
3人に1人が65歳以上という急速な高齢化に直面している日本。介護職不足や約9兆円の経済損失などの課題を抱える一方、シルバーエコノミーは100兆円規模に成長する見込みです。「International KAiGO Festival」は、日本が世界に誇る介護の知見をさらに進化させ、介護を中心とした経済・社会のエコシステムを共創するプラットフォームとして立ち上げられました。スタートアップ、企業、政策立案者、投資家、介護職が集い、セッションやアワードを通じて次世代のビジネスモデルや技術革新を促進。「介護エコシステム」創出につながる業界を超えた価値ある学びが得られるインキュベーションの場として、日本と企業の未来を支援します。
「KAiGO PRiDE」とは
KAiGO PRiDEは、誰もが自分らしく安心して暮らせる社会の実現のため、クリエイティブの力で日本の介護を拡張・強化するプロジェクト。人類史に類をみない超高齢社会の日本では2040年に57万人の介護職が不足すると言われるなかで、私たちがライフクリエイターと呼ぶ全国の介護職・福祉職たちのSelf-respectを醸成し、社会からのリスペクトにつなげる「KAiGO-Branding」を展開。また、介護≠ケアとも言われ、私たちが世界一だと信じる日本の介護の持続可能性のため、様々なプレイヤーの巻き込みを図る「KAiGO-Ecosystem」の形成を推進しています。介護をKAiGOとして、その可能性と誇りをクリエイティブの力で形にするプラットフォームとして多様なプロジェクトをグローバルに展開しています。