CSJ出展者セッション(牛乳石鹼共進社株式会社・三和厨房株式会社・株式会社最中屋)
伝統と革新が交錯する、ケアの「新境地」
── ケアの日常に尊厳と彩りをもたらす三社の挑戦
登壇者プロフィール

江越 亮一 氏
牛乳石鹼共進社株式会社 新規事業室 室長
2002 年に営業職で牛乳石鹼共進社に入社。新規事業の必要性を自ら提言し、2020 年に新規事業室を開設。「30 年後の事業の柱を構築する」ことを目的とし、室員 2 名とともに入浴介助時に負担軽減できる商品の開発や社内廃棄物のアップサイクル、社内コミュニティの運営に取り組んでいます。

中野 典子 氏
三和厨房株式会社 テーブルコーデ事業部
統括マネージャー
創業56年の厨房設計・施工会社。「家のような温かい器で、最期まで食べてほしかった」義父を見送った際の後悔をきっかけに全国初の高齢者施設向け磁器食器レンタルサービス「テーブルコーデ」を立ち上げ。「美味しそうに見える食事」で残食率改善を目指す。

鎌田 農 氏
株式会社最中屋 執行役員 COO/CMO
大手介護・医療システム会社へ介護・障がい事業所向け営業として入職し、最年少かつ2年連続トップセールスを受賞。同営業部門責任者を務めた後に、同社介護・医療戦略企画部門にてSaaSビジネス責任者を経て、2024年7月に株式会社最中屋へ参画。CMOとして事業戦略/マーケティング戦略/PMM/カスタマーサクセスを担当。
セッションの様子
【牛乳石鹼共進社】『SUSUGU』が届ける、場所を選ばない清潔の形
トップバッターとして登壇したのは、創業117年を迎える牛乳石鹼共進社株式会社 新規事業室の江越 亮一(えごしりょういち)氏 です。江越氏は、多くの日本人に愛される赤箱・青箱の歴史を紹介しつつ、同社が新たに挑戦している「YUAGARI プロジェクト」について語りました。このプロジェクトは、「お風呂の価値を外に持ち出し、すべての人が清潔で心地よい毎日を過ごせる社会」を目指すものです。
そこで開発されたのが、ポータブル洗髪デバイス『SUSUGU(ススグ)』です。介護現場において、寝たきりの状態の方や入浴が困難な方への洗髪は、お湯の準備や後片付けが大変で、多くの時間と労力を要します。江越氏は、「服を着たまま、ベッドの上でも場所を選ばずに本格的な洗髪ができる」というSUSUGUの革新性を強調。独自のミストシャンプーとブラシにより、汚れを浮かし、洗い流します。タオルで吸い取る量の水しか使わないため周囲を汚しません。
人の尊厳を守る基本である「『清潔』を皆さんと新しい形で追求し続けたい」という江越氏の言葉には、「洗うこと」への誠実な想いが込められています。単なる時短ツールではなく、ケアを受ける人が「湯上がり」のような爽快感を得られる体験を提供することで、暮らしの質を底上げしようとする同社の姿勢に、会場からは大きな関心が寄せられました。
【三和厨房】『テーブルコーデ』が彩る、温かい食卓の風景
続いて、三和厨房株式会社 テーブルコーデ事業部の中野 典子(なかののりこ)氏 が、高齢者福祉施設専用の磁器食器レンタルサービス『テーブルコーデ』を紹介しました。同社は56年にわたり、学校給食や病院の厨房設計を手がけてきた「厨房のプロフェッショナル集団」です。中野氏は、この事業を立ち上げたきっかけとして、同社の先代が亡くなる直前まで、味気ないメラミン(樹脂)製の、古びた食器で食事をしていたという切実な原体験を明かしました。
中野氏はメラミン食器から温かみのある磁器食器に変えることの効果を力説しました。見た目に美しく、手に持った時の温度や重みを感じられる磁器食器は、利用者の食欲を刺激し、残食率の改善や自尊心の回復に大きく寄与します。しかし、施設にとっては「管理の手間」「破損への不安」「現場の忙しさ」が導入の壁となってきました。
『テーブルコーデ』は、三つの高い壁を独自の仕組みで鮮やかに取り払いました。 まず製品面では、再加熱機器に適合するサイズ設計に加え、洗浄後の水滴を残さず雑菌繁殖を防ぐ「水切り構造」や、欠けを防ぐ高強度の「玉縁(たまぶち)」加工を施したオリジナル食器を開発しています。
さらに運用面での工夫も徹底しており、あらかじめ破損を見越した「2割の予備」を補償。毎年の入れ替え時にスタッフの負担にならないよう、新聞紙などのゴミが出ない「専用の梱包・物流システム」を構築。届いた箱を開けて中身を入れ替えるだけで作業が完結する設計とし、人手不足の現場でも無理なく導入できる環境を整えています。返却された食器を工業資材へ回すアップサイクルまでを一貫して担うことで、施設側は一切の廃棄コストを負うことなく、常に美しく清潔な、尊厳ある食卓を維持することが可能となったのです。ポジティブ・ライフの風景を、同社は一枚の皿からデザインしようとしています。
【最中屋】『ハカルト』が見える化する、ケアラーへの「おもてなし」
最後に登壇したのは、株式会社最中屋 執行役員 COO/CMOの鎌田 農(かまだみのり)氏 です。社名から和菓子屋と間違われることもあるという同社ですが、その実体は「真ん中でケアする人をおもてなし」というビジョンを掲げる、介護DXのフロントランナーです。鎌田氏は、現場の介護職が間接業務に忙殺され、本来向き合うべき利用者との時間が削られている現状を指摘しました。
同社が提供するタイムスタディアプリ『ハカルト』は、スマホで業務内容をポチポチと記録するだけで、いつ、誰が、何の業務にどれだけの時間を使っているかを自動で集計・分析します。鎌田氏は、ある特別養護老人ホームの事例を挙げました。『ハカルト』を用いたわずか5日間の調査から業務のボトルネックを特定した結果、189時間におよんでいた月間の総残業時間を89時間へと、実に100時間もの削減に成功したという圧倒的な数値を示しました。単なる感覚的な「忙しさ」をデータで可視化したことにより、現場の空気が変わり、職員が本来の専門性を発揮できる「利用者と向き合う時間」の創出へと繋がったのです。
さらに同社は、AIを活用したケアプラン作成支援システム『ミタスト』も展開しています。同社が描くビジョンの中心にあるのは、生産性向上と科学的介護の両立を通じて、介護現場の職員がやりがいを感じ、自分たちの仕事に自信を持って働ける世界を実現することです。現場で働く人々が誇りを持ち、自分たちの専門性を最大限に発揮できる環境を整えること。それこそが、超高齢化社会を支える強力な基盤になるのです。
日本から世界へ、KAiGOエコシステムが加速する
100兆円規模に成長すると予測されるシルバーエコノミー市場は、今や異業種の英知が結集する「創造の起点」となっています。今回紹介された洗髪デバイス、磁器食器、アプリといった多彩な解決策は、それ単体で完結するものではありません。流通、現場、そしてテクノロジーが手を取り合い、一人の人間を多角的に支える「KAiGOエコシステム」の中で機能し、初めて真の価値を発揮します。
超高齢社会という巨大な波を、単なる負担の増大ではなく、新たな文明とビジネスを生み出す成長のエンジンへと変えていく。三社が示した情熱と革新は、まさにその確かな一歩です。介護の価値を再定義し、あらゆる人が誇りを持って生きるポジティブ・ライフな未来。飽くなき挑戦の連鎖は、日本の明日をより豊かで希望に満ちたものへと導き、新たなスタンダードを確立することでしょう。
セッション一覧
「International KAiGO Festival 」とは
高齢化を脅威ではなく成長のチャンスと捉え、介護とシルバーエコノミーを変革
——KAiGOが日本と世界の未来を動かす答えと機会を生み出す場
3人に1人が65歳以上という急速な高齢化に直面している日本。介護職不足や約9兆円の経済損失などの課題を抱える一方、シルバーエコノミーは100兆円規模に成長する見込みです。「International KAiGO Festival」は、日本が世界に誇る介護の知見をさらに進化させ、介護を中心とした経済・社会のエコシステムを共創するプラットフォームとして立ち上げられました。スタートアップ、企業、政策立案者、投資家、介護職が集い、セッションやアワードを通じて次世代のビジネスモデルや技術革新を促進。「介護エコシステム」創出につながる業界を超えた価値ある学びが得られるインキュベーションの場として、日本と企業の未来を支援します。
「KAiGO PRiDE」とは
KAiGO PRiDEは、誰もが自分らしく安心して暮らせる社会の実現のため、クリエイティブの力で日本の介護を拡張・強化するプロジェクト。人類史に類をみない超高齢社会の日本では2040年に57万人の介護職が不足すると言われるなかで、私たちがライフクリエイターと呼ぶ全国の介護職・福祉職たちのSelf-respectを醸成し、社会からのリスペクトにつなげる「KAiGO-Branding」を展開。また、介護≠ケアとも言われ、私たちが世界一だと信じる日本の介護の持続可能性のため、様々なプレイヤーの巻き込みを図る「KAiGO-Ecosystem」の形成を推進しています。介護をKAiGOとして、その可能性と誇りをクリエイティブの力で形にするプラットフォームとして多様なプロジェクトをグローバルに展開しています。