Talk-Session vol.2『care:tive award Special Talk』
「ケア×クリエイティブ」が超高齢社会の常識を塗り替える
── 表現の力で文化を創る「care:tive award」の挑戦
登壇者プロフィール

伊藤 浩之 氏
株式会社アイーダクリエーティブCEO
1961年5月15日生まれ。1984年金沢美術工芸大学商業デザイン課を卒業し同年株式会社
電通にアートディレクターとして入社。キリンビバレッジのファイアより、商品開発からパッケージデザイン、ブランドワールド構築まで、すべてのコミニケーション領域を手がける。以降、クリエーティブ視点での新規事業や人材育成、インナーブランディングまでマスコミュニケーションに留まらず様々な領域に業務を拡大。電通ECDとして2019年退社し2020年より株式会社アイーダクリエーティブを設立。現在、トヨタ、エアロトヨタ、レクサス、東京建物、その他スタートアップ各社を担当。

KAZ SHINAGAWA 氏
株式会社トボガン FOUNDER CEO
1967年 東京生まれ。1993年に渡米。ハリウッドの独立系スタジオApricot Entertainmentでの修行ののち、俳優学校Hollywood Actors Academyを創設。1996年に独立、日米欧の広告、雑誌等の企画、撮影のプロデュースを主業務としたKaz Coordination Inc.(現toboganUSA)を立ち上げる。

矢後 直規 氏
Art director / Graphic designer
1986年、静岡県生まれ。博報堂、SIXを経て、2025年に独立Pangraphics設立。主な仕事は、日本航空系LCC・ZIPAIRのロゴ、シンボル、機体デザイン、制服のディレクションなどのブランド開発。Roppongi Hills Fashion、Laforet HARAJUKUなどのビジュアルデザイン。矢野顕子などCDジャケット、篠山紀信など写真家のブックデザイン。2016年ドイツデザイン誌novum、2018年中国デザイン誌 Package and Design Magazine、2020年COMMERCIAL PHOTOで特集され、2020年2月にラフォーレミュージアムにて初大規模個展「婆娑羅」を開催。青幻舎から初作品集「婆娑羅」が出版される。

マンジョット・ベディ
一般社団法人KAiGO PRiDE 代表理事
「株式会社just on time」代表/「株式会社next is east」代表/エグゼクティブクリエイティブディレクター/カメラマン。1969年インド・ニューデリー生まれ。外交官の父の仕事で、2歳より世界各地を巡り、17歳で来日。1997年広告会社に入社。クリエイティブ・ディレクターとして伊勢神宮、トヨタ自動車/レクサス等数々のCMを制作。2015年からは、熊本の常設型認知症カフェ「as a cafe」の企画・運営をプロデュースしている。
セッションの様子
強いクリエイティブが、社会の「当たり前」を更新する
トークセッションvol.2は、広告やデザインの第一線で活躍するトップクリエイターたちが集結する、異例の顔合わせとなりました。 ファシリテーターを務めるKAiGO PRiDE理事の小口貴幸(こぐちたかゆき)は、冒頭でクリエイティブが持つ「認識を変える力」について、海外の著名なキャンペーン事例を挙げて語りました。自分の容姿を低く見てしまう女性たちの認識を問い直した広告や、社会問題化していた同意のない画像共有に歌の力で立ち向かい法律まで変えたオランダの事例などは、どれも強烈なメッセージを放っています。
小口理事は「気づきは説得よりも強い。超高齢社会においても、クリエイティブを通じて提供すべき価値がある」と訴えます。この志を形にするため、セッションでは新プロジェクト「Care:tive Award(ケアティブ・アワード:CCA)」の始動が発表されました。これは「ケア×クリエイティブ」の力で日本の超高齢社会を変えることを目指す、全く新しいアワードです。
なぜ今、ケアの現場にクリエイティブが必要なのか
登壇した4名のクリエイターは、それぞれの視点から「ケアとクリエイティブ」の交差点について語り始めました。
株式会社アイーダクリエーティブの伊藤浩之(いとうひろゆき)氏は、電通時代から数多くのブランド構築を手がけてきた経験を踏まえ、「人は死に向かっていく現実をなかなかイメージできないが、年老いたときを自分事として捉える『気づき』を与えることが一番大事だ」と述べました。
伊藤氏は、かつての日本人が持っていた「思いやり」や「もてなし」の心をクリエイティブの基盤に据えるべきだと説いています。
続いて、グローバルに活躍する株式会社トボガンのKAZ SHINAGAWA(かずしながわ)氏は、自身の仕事を「1を1.1にする仕事」と定義します。価値ある存在をクリエイティブの力で少しだけプッシュし、理解や感情の共有を広めることが、介護の世界においても鍵になると言及しました。
また、アートディレクターの矢後直規(やごなおのり)氏は、娘とのアートワークを通じたコミュニケーションの事例を紹介しました。娘が描いた線から「ここに興味があるんだな」と未知の側面を知る体験は、世代を超えた新たな対話を生むヒントに満ちています。
KAiGO PRiDE代表理事のマンジョット・ベディは、10年にわたる介護×クリエイティブの活動を振り返り、「説明やデータだけでは人の心は動かない。自分事にして初めて心は動くものであり、そこにこそクリエイティブの出番がある」と熱く語りました。
カテゴリーも年齢も超える「Care:tive Award」の設計
新たに立ち上げられた「Care:tive Award(CCA)」は、従来のアワードの枠組みを大きく超えるものです。2026年4月末を目処に世界中からエントリーを受け付け、書類選考を通過した10組程度がトップクリエイターによるワークショップに参加します。そこで磨かれたアイデアをもとに制作を行い、翌年の「International KAiGO Festival 2027」で最終発表を行うという、1年にわたる長期プロジェクトです。
矢後氏は、「通常のアワードはキャリアアップのためにあるが、CCAはクリエイターとして生涯のテーマを見つける『スピリット』を作る場にしたい」と掲げました。 このアワードには年齢制限も設けられていません。KAZ氏は、日本の人口の多くを占める50代以上の人々こそが、介護という問題に直面し、最も深い洞察を持っている可能性があると指摘しました。学生の挑戦はもちろん、プロ・アマ問わず、既存のメディアにとらわれない斬新なアイデアが集まることに期待を寄せています。
伊藤氏からは、他界した父との記憶に基づいた温かなアイデアも語られました。認知症が進み無表情だった父親が、部下に話すように現役時代の仕事について生き生きと語り出したエピソードです。伊藤氏は「それぞれの人生を復活させるようなコンテンツも面白い」と語り、個人の人柄や輝きにスポットを当てることの価値を強調しました。
「マイナス」を「ポジティブ・ライフ」の突破口へ
セッションの終盤、議論は介護を「負担」や「マイナス」と捉える社会のマインドセットの変革へと及びました。 矢後氏は「クリエイティビティとは、ネガティブなものをポジティブに変える突破力だ」と述べ、体の不自由さが新たな表現のきっかけになる可能性について言及しました。
KAZ氏は経済的な観点から、ヤングケアラー問題などの深刻な現実に触れつつも「寝たきりの状態はゼロ(生産性がない)なのか」という問いを投げかけます。もし、クリエイティブの力で高齢者が社会に貢献し続けられる新しい形を生み出せれば、それは巨大な市場機会、すなわち「シルバーエコノミー」としての可能性を大きく広げることになります。
マンジョット代表理事も、海外では車椅子や障害を持つ人々が街の中に当たり前に存在し、食事や買い物を楽しんでいる現状を指摘しました。日本に根強い「周りに迷惑をかけるから外出を控える」というマインドセットを壊し、誰もが平等に、自分らしく楽しく生きるポジティブ・ライフを社会に実装していくこと。それこそが本アワード、ひいてはKAiGO PRiDEの目指すゴールなのです。
シルバーエコノミーの未来を創る、表現者たちの共創
最後、審査員を務めるクリエイターたちは、アワードへの挑戦を検討している人々へ力強いメッセージを送りました。
矢後氏は、コミュニティとしての繋がりの重要性を説き、10組のファイナリストが深く語り合うことで生まれる価値をメリットとして挙げました。 KAZ氏は「マイナスに見えていたものをプラスに見せる視点の変化」を、伊藤氏は「自分ならこういうことがあればハッピーに死ねるという妄想」を形にしてほしいと呼びかけました。 マンジョット代表理事は「同じことを信じる人たちが集まることで、掛け算のチームが生まれる。このアワードが日本から世界へ向かう大きな始まりになる」と締めくくりました。
超高齢社会という人類未踏の領域において、介護を「守るべきもの」から「新しい価値を共創するチャンス」へと昇華させる試み。 CCAというプラットフォームを通じて、高齢者が本来持っている輝きがクリエイティブと出会い、100兆円規模とされるシルバーエコノミーの可能性を鮮やかに開花させていくことでしょう。 高齢化をポジティブに捉え、全ての人が誇りを持って生きるポジティブ・ライフな未来を迎える。KAiGO PRiDEは「表現」によって、新たな時代のスタンダードを切り拓こうとしています。
セッション一覧
「International KAiGO Festival 」とは
高齢化を脅威ではなく成長のチャンスと捉え、介護とシルバーエコノミーを変革
——KAiGOが日本と世界の未来を動かす答えと機会を生み出す場
3人に1人が65歳以上という急速な高齢化に直面している日本。介護職不足や約9兆円の経済損失などの課題を抱える一方、シルバーエコノミーは100兆円規模に成長する見込みです。「International KAiGO Festival」は、日本が世界に誇る介護の知見をさらに進化させ、介護を中心とした経済・社会のエコシステムを共創するプラットフォームとして立ち上げられました。スタートアップ、企業、政策立案者、投資家、介護職が集い、セッションやアワードを通じて次世代のビジネスモデルや技術革新を促進。「介護エコシステム」創出につながる業界を超えた価値ある学びが得られるインキュベーションの場として、日本と企業の未来を支援します。
「KAiGO PRiDE」とは
KAiGO PRiDEは、誰もが自分らしく安心して暮らせる社会の実現のため、クリエイティブの力で日本の介護を拡張・強化するプロジェクト。人類史に類をみない超高齢社会の日本では2040年に57万人の介護職が不足すると言われるなかで、私たちがライフクリエイターと呼ぶ全国の介護職・福祉職たちのSelf-respectを醸成し、社会からのリスペクトにつなげる「KAiGO-Branding」を展開。また、介護≠ケアとも言われ、私たちが世界一だと信じる日本の介護の持続可能性のため、様々なプレイヤーの巻き込みを図る「KAiGO-Ecosystem」の形成を推進しています。介護をKAiGOとして、その可能性と誇りをクリエイティブの力で形にするプラットフォームとして多様なプロジェクトをグローバルに展開しています。