Special Session『Designing Positive Life』
「ポジティブ・ライフ」をデザインする
── 超高齢社会を「自分らしく生きる」ためのクリエイティブとウェルビーイングの交差点
登壇者プロフィール

グスタフ・ストランデル 氏
武蔵野大学ウェルビーイング学部 教授
1974年、スウェーデン生まれ。高校・大学時代に日本への留学を経験。ストックホルム大学東アジア学部卒業後、スウェーデン福祉研究所所長を経て、2009年に株式会社舞浜倶楽部総支配人、2012年に同代表取締役に就任。高齢者福祉をテーマに、スウェーデンと日本で調査・研究。両国の架け橋として多角的に活躍し、多数のメディアに取り上げられている。

笠間 健太郎 氏
株式会社アーツ・アンド・ブランズ代表
東京大学経済学部卒。新卒で電通入社後、マーケティング局、営業局を経て、2001年よりプランニング部門に所属。 2020年12月、電通を退社し、株式会社アーツ・アンド・ブランズ設立。マーケティング戦略、ブランディングからクリエーティブ、キャンペーンプランニングまでトータルに手がける統合コミュニケーション・プランナー/ディレクターとしてグローバルブランドを含む、あらゆる業種の企業、ブランドを担当。特にエンターテイメントやアート、アカデミズム、メディア等と企業・ブランドをつなぎ、WIN/WINのコラボレーションをつくることで新しい価値の創出と双方の課題解決を図る「コンテンツ・コラボレーション」プロジェクトを多く手がける。

伊藤 浩之 氏
株式会社アイーダクリエーティブCEO
1961年5月15日生まれ。1984年金沢美術工芸大学商業デザイン課を卒業し同年株式会社 電通にアートディレクターとして入社。キリンビバレッジのファイアより、商品開発からパッケージデザイン、ブランドワールド構築まで、すべてのコミニケーション領域を手がける。以降、クリエーティブ視点での新規事業や人材育成、インナーブランディングまでマスコミュニケーションに留まらず様々な領域に業務を拡大。電通ECDとして2019年退社し2020年より株式会社アイーダクリエーティブを設立。現在、トヨタ、エアロトヨタ、レクサス、東京建物、その他スタートアップ各社を担当。

マンジョット・ベディ
一般社団法人KAiGO PRiDE 代表理事
「株式会社just on time」代表/「株式会社next is east」代表/エグゼクティブクリエイティブディレクター/カメラマン。1969年インド・ニューデリー生まれ。外交官の父の仕事で、2歳より世界各地を巡り、17歳で来日。1997年広告会社に入社。クリエイティブ・ディレクターとして伊勢神宮、トヨタ自動車/レクサス等数々のCMを制作。2015年からは、熊本の常設型認知症カフェ「as a cafe」の企画・運営をプロデュースしている。
セッションの様子
「ポジティブ・ライフ」が拓く、超高齢社会の新たな地平
「International KAiGO Festival 2026」の初日、ひときわ熱い注目を集めたのが、緊急開催となったこのスペシャルセッションです。 ファシリテーターを務める 一般社団法人KAiGO PRiDE理事の小口 貴幸(こぐちたかゆき) は、冒頭で超高齢社会を「脅威や負担としてではなく、新しい価値や創造が生まれる可能性として捉えるべきだ」と述べました。
本セッションの核心となるキーワードは「ポジティブ・ライフ」です。 これは単なる長寿を目指すのではなく、年齢や立場に関わらず誰もが自分らしく、そして楽しく生きるための選択肢を社会に増やしていくという思想を指します。 小口理事は「誰かを支える側、支えられる側という線引きを超えて、一人ひとりが人生を前向きにデザインしていく。そのヒントを、異なる領域の実践者たちとともに深掘りしたい」と語り、トークをスタートさせました。
幸福度の「Uカーブ」が示す、シニア世代の充足感
最初に登壇した 武蔵野大学ウェルビーイング学部 教授のグスタフ・ストランデル氏 は、学術的な視点から「年齢と幸福度」の関係について非常に興味深いデータを提示しました。 統計学的に、人生における幸福度は「Uカーブ」を描くといいます。 人生で最も身体的な力を持っているはずの40代、50代に幸福度は最も低くなり、反対に60代、70代、80代と年齢を重ねるほど幸福度は高まっていくのです。
「世間では80代を『孤独でかわいそう』と思いがちだが、データによれば彼らの多くは幸せを感じている」とストランデル氏は指摘します。 かつての不足社会では自立できない高齢者を切り捨てる「姥捨山」のような歴史もありましたが、今の日本はそこから卒業しました。 現在、日本は平均寿命で世界一を誇るだけでなく、認知症になっても地域で暮らし続けられる先進モデルを世界に示しています。 ストランデル氏は、身体的・精神的・社会的な側面を満たすことが「ポジティブ・ライフ」の定義であると説き、豊かな高齢期の可能性を強調しました。
「異彩」が開花する ── ヘラルボニーが追求する才能の伝播
続いて、ビジネスと福祉の融合を実践する 株式会社アーツ・アンド・ブランズ代表の笠間 健太郎(かさまけんたろう)氏 が、知的障害のある作家のアートをビジネスに展開する株式会社ヘラルボニーの活動を紹介しました。 笠間氏が顧問を務めるヘラルボニーでは、重度の障害を持つ作家たちの独特な色彩感覚や集中力を「異彩」として捉え、ブランドや企業とのコラボレーションを通じて新たな価値を創出しています。
笠間氏が紹介したあるエピソードが、参加者の心を大きく揺さぶりました。 それは、ある作家の著作権収入が増えたことで扶養の枠を外れ、「確定申告をすることになった」という親御さんからの報告です。 「これは単なる納税の話ではなく、障害と言われたものが才能として世に認められ、自立していくプロセスそのものである」と 笠間氏は力説します。 この活動は作家本人だけでなく、支える家族や社員にも大きな喜びと誇りを与えてきました。 こうした「関わる全員がポジティブな気持ちになれる循環」こそが、社会をより良く変えていく原動力になるのでしょう。
個人の「場」をデザインし、人生に火を灯す
クリエイティブの視点から、株式会社アイーダクリエーティブCEOの伊藤 浩之(いとうひろゆき)氏 は、高齢者の「場作り」の重要性を語りました。 伊藤氏は、「高齢者を施設に閉じ込めるのではなく、その人らしい生き方を表現できる場を提供することが、クリエイティブの使命である」と述べます。 その具体例として、「富士山抹茶」を紹介しました。富士山の湧水と職人の技によって育まれたこの抹茶には、1400年前の聖徳太子が説いた「和」の精神が凝縮されています。特に強調したのは、抹茶が持つ「精神を整える儀式」としての力です。かつての武士が出陣前に一服の抹茶で覚悟を決めたように、人生の円熟期にある人々が、この抹茶を「けじめ(区切り)」として嗜む。それが心のスイッチとなり、「よし、絵を描こう」「趣味を再開しよう」と行動を起こす。「心の火を再点火するクリエイティブな道具」として抹茶を再定義する視点を紹介しました。
また、伊藤氏は自身が65歳を迎えた当事者として、「65歳から90歳までの人生を自分自身でプランニングする」と宣言。「自分の夢を描き、それに寄り添う場作りを家族や企業が行う仕組みができればポジティブ・ライフが実現する」という言葉には、これからのシニア世代の主体的な生き方が示唆されていました。
100兆円市場の本質 ── 誰もが「自分らしく」あり続けるために
最後に、一般社団法人KAiGO PRiDE 代表理事のマンジョット・ベディが、シルバーエコノミーが持つ100兆円の可能性について語りました。 「自分らしいとは何か。それは、年を取る前と後で変わらないことだと思う」と訴えます。 例えば、ゴルフが好きな父親が「年だから危ない」と止められるのではなく、テクノロジーやサポートによって、年を重ねてもゴルフを続けられる方法を見つけ出すこと。 そこには、テクノロジー、AI、プロダクトが果たすべき大きな役割があるといいます。
シルバーエコノミーの真のポテンシャルは、「人間が最後まで我慢するのではなく、やりたいことを続けられる環境を作る」ことにこそ眠っています。マンジョット代表理事は 「クリエイティブの力で社会の『マインドセット』を壊し、誰もが平等に外出し、食事を楽しめるハッピーな社会を創りたい」と熱い決意を表明しました。
本セッションを通じて、共通して語られたのは、介護を「衰えへの対応」とする旧来の観点を脱ぎ捨て、個人の「ポジティブ・ライフ」を最大化させるための、巨大な市場と創造性の広がりです。これこそが、KAiGO PRiDEが本イベントを通じて提唱する「高齢化を脅威ではなく、日本と世界の未来を動かす成長のチャンスへと変える」という強い決意に他なりません。 日本が世界に誇るケアの精神と、テクノロジー、そして何よりも一人ひとりの「どう幸せに生きたいか」という誇り高い思いを掛け合わせることで、私たちは新たなシルバーエコノミーを共創していきます。
セッション一覧
「International KAiGO Festival 」とは
高齢化を脅威ではなく成長のチャンスと捉え、介護とシルバーエコノミーを変革
——KAiGOが日本と世界の未来を動かす答えと機会を生み出す場
3人に1人が65歳以上という急速な高齢化に直面している日本。介護職不足や約9兆円の経済損失などの課題を抱える一方、シルバーエコノミーは100兆円規模に成長する見込みです。「International KAiGO Festival」は、日本が世界に誇る介護の知見をさらに進化させ、介護を中心とした経済・社会のエコシステムを共創するプラットフォームとして立ち上げられました。スタートアップ、企業、政策立案者、投資家、介護職が集い、セッションやアワードを通じて次世代のビジネスモデルや技術革新を促進。「介護エコシステム」創出につながる業界を超えた価値ある学びが得られるインキュベーションの場として、日本と企業の未来を支援します。
「KAiGO PRiDE」とは
KAiGO PRiDEは、誰もが自分らしく安心して暮らせる社会の実現のため、クリエイティブの力で日本の介護を拡張・強化するプロジェクト。人類史に類をみない超高齢社会の日本では2040年に57万人の介護職が不足すると言われるなかで、私たちがライフクリエイターと呼ぶ全国の介護職・福祉職たちのSelf-respectを醸成し、社会からのリスペクトにつなげる「KAiGO-Branding」を展開。また、介護≠ケアとも言われ、私たちが世界一だと信じる日本の介護の持続可能性のため、様々なプレイヤーの巻き込みを図る「KAiGO-Ecosystem」の形成を推進しています。介護をKAiGOとして、その可能性と誇りをクリエイティブの力で形にするプラットフォームとして多様なプロジェクトをグローバルに展開しています。